受け継がれてきた技で紡ぐ黄金の実 千葉県南房総市 加藤 繁さん

口に含んだだけで爽やかな初夏の味わいが広がります。甘みと酸味がしっかり溶け合った果肉たっぷりのびわ。千葉県南房総市は全国有数のびわの産地です。この地で130年以上にもわたり、代々、びわ作りを続けている加藤家。熟達した技術を先代から受け継いでいるのは、78歳になるびわ作りの達人・加藤繁さん。農薬を使わず肥料も極力減らして、継承されてきた匠の技でつくった極上の逸品を届けてくれています。

いのちを感じるみずみずしい果実

南房総市の海沿いの山に滴るばかりの「黄金の実」はありました!
口に含んだ瞬間、甘みと酸味の絶妙な味わいが奏でられます。
初夏の爽やかな風味が体じゅうに広がる加藤さんの≪房州びわ≫。
丹精に丹精を重ねて手作業でつくりだされた作品は、目にも鮮やかな橙色に輝いています。
その鮮やかな色合いから、≪黄金のびわ≫とも呼ばれることも。
南房総の温かい気候に育まれ、食後にもおやつにも、幸せな笑顔がこぼれる、名品中の名品です!

「富房」「大房」「田中」の3品種を栽培する加藤さん。5月中旬ごろにいよいよ収穫が始まります。
命がけの摘果作業が爽やかで濃厚な味わいを生み出す!
一日中、木の上での作業は体力的にもきつく想像を超えます。こうして皆さんに美味なびわが届くのです。

3月、加藤さんの自宅を店長の早川と訪ねました。やわらかな陽射しが降り注ぐ庭先には、花々が咲き誇り、美しい鳥の鳴き声が響き渡って、やさしい空気に包まれています。
ご自宅を訪ねてまず驚いたのは、黒光りの大きな神棚。江戸時代からのものだそうで、受け継がれてきたものを大切にして受け継いでゆく加藤家の一端を垣間見ました。
そして、加藤さん宅の裏山のつづら折りの急斜面を上り、尾根に出ると反対側の急斜面にびわ園は広がっていました。
「こんにちわ~。これは人のするしごとではないよぉ」と突然、びわの木の上から人の声が・・・
びっくりして見上げると加藤さんが木の上で黙々と作業をしていました。

びわの味わいや収穫量を左右する極めて重要な作業の「摘果」を行っていたのです。
摘果はひと房に5~6個ついた実のなかから、一番すぐれた実を1つだけ見極め、ほかの実を取り除く作業。2月から4月にかけて行い、びわの木と長年対話してきたなかで培った経験と勘を総動員して作業に集中します。
このほか摘果の前には、「花もぎ」と呼ばれる作業も行います。露地栽培では、大きな実をつけさせるために11月から12月にかけて5から7房咲く花を2から3房に摘み取ります。一つ一つの作業すべてが、実りの初夏を迎えるための大切な工程です。

木の根元からてっぺんまで、くまなく見通す達人の眼光

加藤さんは、200本あるびわの木すべての実を摘果。ご高齢にもかかわらず、一日の大半を木の上で過ごします。
高さ7、8メートルにもなる木の上での作業は、まさに命がけ。過酷な作業の連続は、想像を絶します。
体にはたいへんこたえる作業をものともせずに続けるのは、すべてはお客さまのためです。
1本の木で袋掛けするのは、1000個から1200個に及びます。これは小さな実を寒さや害虫から守るためです。
「昔は1日で2500個ほど袋をかけましたよ」と振り返ります。
厳しい寒さのときは手がかじかんで思い通りに動かず、火を起こしながらの作業を余儀なくされます。袋掛けできるのは600個ほどにとどまります。
ところどころに残るたき火の跡が厳しい作業を物語っています。

(写真上)加藤さんから説明を受ける早川店長。 / (写真下)摘果したあとのびわの木。

「1本の木のなかで1粒でも袋掛けしていない実が残っていれば、見たら分かります」と加藤さん。達人の眼光はびわの木の根元からてっぺんまで、くまなく見通しています。 加藤さんは幼少のころから祖父につれられて山へ向かう毎日でした。先代から継承してきた匠の技を体現しているので、高い木の上での人並み外れた作業も可能になるのです。

「田中」の元祖、継承されてきた技術の枠を集めたびわ
急な斜面を軽快な足取りで進む加藤さん(写真上) / 70年前を振り返るように話す、優しさをたたえた加藤さんの瞳。(写真下)

加藤さんは代々びわ農家。
南房総市の山の急斜面を畑にして、130年以上にわたってびわ園を営んできました。
加藤さんが作っているのは、早生で比較的甘みが強い「大房」、粒が大きめでほどよい甘さが特長の「富房」、そして酸味と甘みが絶妙に混ざり合い、濃厚な味わいを醸し出す「田中」。
3品種とも露地栽培ですが、「富房」を露地で栽培する生産者は極めて少ないそうです。それだけ、加藤さんが熟達した技術で栽培している証(あかし)です。
ちなみに「田中」は加藤家が南房総市に広めました。いわば「田中」の元祖なのです。
「たたき上げの職人の仕事ですよ。朝早く起きて山へ行き、暗くなったら山を降りる毎日。これが定めだと思って懸命に生きてきました」。
そう話す加藤さんの目は深みとやさしさをたたえていました。

労を惜しまず、丹精と願いを込めてより美味に!

若葉が山々を覆う5月中旬、いよいよ収穫です。とれたてのびわは自宅の裏山の尾根から滑車に乗せて降ろします。
まずは「富房」と「大房」。袋がけされた状態のびわの実をもいだ後、指紋がつかないよう、丁寧に取り出して箱詰めします。
一部はさらに一つずつ別な袋に入れる丹念ぶり。橙に輝くびわからは、みずみずしい「生命の気」のようなものを感じます。
最後まで手間と労力をかけてできた逸品が、皆さまのもとに届けられるのです。
「いい実がついてくれるよう毎日願いながら木と向き合い作業をしています。本当にありがたみを感じますね」と加藤さん。
そのびわに魅せられて、県外からも買い求めるお客さまもいるそうです。

収穫したびわは山から滑車で降ろします。みずみずしさあふれるうちに皆さんにお届けします。

「丹精込めた品です。食味の好みはいろいろあると思いますがじっくり味わってください」と加藤さんはしみじみと語ります。
今年は寒波もなく比較的温暖で適度に雨も降り、「すぐれた品質のびわができそうだ」と期待を込めています。


左から、早川店長、加藤さん、加藤さんの娘さんの秀子さん。

びわ園を訪れたとき、木の上で軽快に作業していたことも度肝を抜かれましたが、さらに感心したのは、良質のびわができるための自然条件を知り尽くしている点でした。
幼少のころから70年以上にもわたってびわの木と向き合ってきた加藤さんの自然を見つめる「目」と「勘」には、固定観念が覆される思いでした。
そんな現場を拝見して僕自身びわの見方が変わりました。加藤さんの思いと技が詰まったびわをありがたくいただこうと思います。

取材者:松本 一直
年月日:2009年3月13日

 
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