千葉県長生郡 伊藤 孝さん

 ミレーには無農薬米として斉藤さんの合鴨米、六つ星合鴨米、高柳さんの無農薬米がありますが、どうしても収量は多くは無いため、今までたくさんのお客様にはお届けはできませんでした。今年の無農薬米はどうしようか?と考えていたときに、「無農薬無化学肥料のお米作り」に挑戦をしているこめ吉農園さんとご縁があってお知り合いになる事が出来ました。ミレー代表の早川もすぐに意気投合してお米を取り扱うことが決まったので、早速取材に行って参りました。

  長柄(ながら)町は人口8千人ほどが住む町で、地図をみると千葉県のほぼ中央部の丘陵地に位置し、小さな山とその山沿いの川、そして地下水が豊富なところです。
 山あいにある田んぼの特徴として日中の寒暖差が大きいだけでなく、山からミネラル豊富な水が湧き出ます。またこの地域の土は青粘土で、畑としてはなかなか大変な土質ですが、鉄分やミネラルをたっぷり含んでおり、水の持ちも良いため稲を育てるには適した条件が整っている地域なのです。

(写真)山あいのいわゆる「谷津田」にある田んぼと伊藤さん。虫や鳥などの自然も豊かです。
 

(写真上)株の間を広く取り、1ヶ所に植える苗を少なくしたため、太く逞しい稲が育っています/(写真下)日当たりや風通しが良いため、すくすく育った穂にはぎっしりと大粒のお米がたっくさんつきました

 この長柄町でお米を作っている伊藤孝さんは、農家の4代目。現在5.5ha(東京ドーム約1.1個分)の大きさの田んぼで稲を育てています。伊藤さんのお父さんの代から田んぼを大きくしていきました。しかし、伊藤さんが40歳の時にお父様が亡くなられ、消防職員として仕事をしながら手伝いをしてきた伊藤さんは、全てを引き継ぐことになったのです。
 伊藤さんは、兼業農家として「一般的」な稲作農家さんと「同様に」、苗を作る種の消毒剤、苗を育てる土の消毒剤、苗を植えた時の初期除草剤、しばらくたってからの中期除草剤、害虫を殺す殺虫剤や殺菌剤など、最低8種類の農薬を使ってきました。しかし、10年ほど前から「このままで本当に良いのだろうか・・・?」と思い悩んでいました。
 そしてお孫さんがお2人生まれた3年前に、いつも新米を一緒に食べていた奥様が「毎年、新米の香りが無くなってしまってるよ」とこぼした言葉にショックを受け、「化学肥料の力で無理やり育てたお米ではなく、本来の土の力で育てたみずみずしい香りのするお米を作りたい!」と心を固めました。    

   それからお米の有機栽培を指導している先生を探し当て師事しながら、夜は仕事が終わると毎日本をむさぼるように読みました。日々勉強を続けながら、まず1年目は化学肥料を一切止め、米ぬかなどの有機物のみで稲を育てました。2年目は、全ての農薬の使用量を半分にしました。いわゆる「減農薬無化学肥料栽培」になったわけですが、単に農薬を半分にした、というだけでなく有機栽培で美味しいお米を作るために様々な工夫がされています。
 例えば、苗を育てるためには、普通は「育苗箱」という土が2㎝ぐらい入った長方形のお盆のような育苗箱に、種をびっちりと蒔きます。そうすると発芽した葉っぱが密集して細長く弱々しくなってしまいがちです。一方、伊藤さんはあえて小さな穴が集まったような箱を使い、1つの穴に1~4粒の種しかまきません。これにより苗が重なりあわずにのびのびと丈夫に育つのです。また育てた苗は、普通は3週間ほどたって苗の葉が3~4枚で出たところで植えるのですが、伊藤さんは5週間ほど待って苗の葉が5枚以上になってから植えます。これは、昔ながらのやり方で、大人として成長した「成苗(せいびょう」を植えるやり方なのです。
 更に、田植え時には伊藤さんは1ヶ所に1~3苗しか植えず、かつ苗と苗の間を普通の1.5~2倍の間隔をあけて植えます。これにより、風通しよく光が十分に当たるので、一つ一つの苗が丈夫に元気に育ち、「ぶんけつ」といってどんどん茎の数も増えていきます。

 この2年で「香りと甘みが凄くするようになった」と評判を呼び、近くの雑貨屋さんがお客様をご紹介して下さり、2百俵分(1万2千㎏分)ものお米が売れるようになりました。そして、今年は1町5反歩分(約4千5百坪)ほどの田んぼを完全無農薬無化学肥料(ミレーでは、こちらの田んぼのお米を販売させていただいております)にし、残りの田んぼも初期除草剤を通常の半分だけ使い、他の農薬は一切使わず稲を育ててきました。その結果、一つ一つの稲が太くたくましく育ち、穂についた一粒一粒が大きくて旨味がつまっているお米になりました。近所の農家からも、伊藤さんの稲がたくましいので「伊藤さん、稲の種類変えたか?」と聞かれたほどです。

 この数年で一気に減農薬、そして無農薬栽培に変えたことで苦労も絶えません。農法が難しい事から来る手間などもありますが、何よりも「周囲の農家さんからの視線、意見」が一番堪えるそうです。
 「私は昔からの付き合いだから何か言われても『まあ、いいじゃないか』といって終わりなんですが、妻や研修生にも直接『お宅が変なことを初めて、全くいい迷惑だよ』といったような批判が来るんです」
 普通の農家さんは普通に農薬を使って稲を育ててきました。ところが突然、地元の仲間の伊藤さんが無農薬栽培に切り替えたら「何を始めたんだ?」と怪訝に思うのは当然といえば当然です。そういった地元の仲間の冷たい視線や批判を浴びながらその土地で生活するのは、本当につらいと言います。
 それでも伊藤さんは言います。
「今までのやり方では、誰もお米なんか作らなくなってしまうのは明らかなんです。ここら辺でお米を作っているのはみんな、高齢化した農家ばかりなんです。耕作放棄されて荒れた田んぼもどんどん出てきてこのままではお米を誰も作らなくなってしまう。何とか次世代も米つくりをやってくれる若者を呼び寄せないと」    

(写真上)研修生として既に田んぼや販売も任せられている立松君/(写真下)伊藤さんの腕の中には立松君がアイディアを出した1kg袋も

   伊藤さんは昨年始めて研修生の募集をしました。やってきたのが立松君。図書館に3年間勤務したものの農業への思いが湧き上がり伊藤さんのところに研修生として入りました。
 「農家の研修生はさんざん働かせた後に、あとは自分で土地探しもやってね、で終わりという所が多いんです。地縁や人脈がないとなかなか田んぼや畑は借りれない。研修が終わった後にきちんと農業が出来る人は少ないんです。だから私が研修期間中は技術指導をしたり機械を貸すだけでなく、研修後の耕す田んぼも紹介するつもりなんです。せっかく若者が来てくれたんだからきちんとこの長柄(ながら)に根付いてもらいたいんです。そういった田んぼで自活できる仕組みを作りたいと思っているんです」

 昨年、立松君に実際に5反歩の田んぼを任せ自分で稲の栽培をしてもらっただけでなく将来農家で生計を立てるために、収穫出来たお米を消費者に直接販売することも任せています。立松君も、そういった実践指導の中で「今の時代1kgからの方が良いですよ」といって1kg袋売りを提案するなど、2人でタッグ組ながら将来を見通した研修をしています。

(写真)いつも寄り添うように近くにいて伊藤さんを支えてきた奥様と笑顔で

 そんな伊藤さんのお米がようやくお届けできるようになりました。伊藤さんの無農薬の新米は量に限りがありますが、定期的にご購入して応援してくださるお客様にミレーも販売をしていきたいと考えております。こめ吉農園の挑戦、是非応援してくださいね!

取材担当者:ミレースタッフ片岡
取材日:2010年9月15日

 
お客様の声
 


 
トラックバック
 
clear.gif