壁は破るためにあるんだよ
古代れんこん
千葉県成田市 有坂 照章 さん
古代のロマンにあふれたレンコン
利根川に近い成田市のはずれの田園地帯の中に、冬の間も水を張る蓮田が点々としています。有坂さんの「古代れんこん」は、テレビや雑誌の取材でもおなじみ。地元でも大人気の美味しいレンコンです。
———こんにちは〜。有坂さんのレンコンは、近くの道の駅はじめ全国でも大人気ですね。栽培を初めて何年になるのですか?
「50年位になるかなあ。元々は米農家だったけど米価がどんどん下がり減反政策もあったので、米だけではまずいなと思い、レンコン栽培を始めたんだ。今ではもう息子と一緒にレンコン一筋だよ!」
———なぜ「古代れんこん」と呼んでいるのですか?
「古代の土で育てられたレンコンということで古代れんこんと呼んでいるんだよ。昭和20年代、千葉の二千年前の地層から見つかった、たった3粒の蓮の種が発芽したんだ。この話に感動してね。蓮という植物の生命力と、古代のロマンが伝わるようなレンコンを作りたいと思ったんだ。1500万年前の地層(福島県棚倉断層)から出土される天然ミネラルたっぷりの貝化石の粉末を蓮田に投入して栽培しているんだよ」
一年を通して出荷できるように
「毎年、栽培したハスの一割を残しておいて、そのまま田んぼの中で育てて、春になったら、その種(地下茎)を水圧ホースで泥をよけながら掘り出すんだけど、これが難しいんだ。何しろ全部が土の中で見えないからね。やり方を聞いても体で覚える仕事だから理屈じゃないんだ。経験しなくちゃ覚えられない。この作業でくじけてしまう生産者も多いよ(笑)」
———掘りだした種はどうするのですか?
「4月になったら蓮田に定植するんだよ。一坪に一本ずつ。一反で300本。それからは草取りだ。深水にすると草が生えにくいので水の管理をしながら様子をみるんだよ。除草剤はレンコンの生育を妨げてしまうので使えないからね。害虫であるアブラムシ対策として、田んぼの周りだけ、早い時期に殺虫剤をまくけど、できるだけ安全に作りたいから使う農薬と言ったらそれだけだね」
———有坂さんはこの辺りでは珍しく一年中レンコンを出荷されていますね。
「途切れることなくお客さんに食べてもらうにはどうしたらいいかな?と、いろいろ栽培方法を工夫しているんだよ。普通はタネを撒いて節が伸びたものを移植して育て、8月中旬から出荷するんだけど、蓮田の上にビニールハウスを建てて6〜7月の端境期にも出荷できるようにしているんだ。また間隔を空けて植える筋掘り栽培や、2年掘りと言って、わざと掘らないで残す栽培方法も取り入れたりして出荷時期を調整しているんだ」
おいしさの秘密は土にあり!
「畑でも掘れば蓮田にできるけど、レンコン栽培に一番適しているのは田んぼだね。水が絶対に必要だから。柔らかくてツルツルしている土で水はけが悪い場所がいいんだ。ケドって聞いたことあるかな?田んぼに向いている土だよ。ケドがいいね」
———土作りにはどのような工夫があるのでしょうか?
「貝化石のミネラルをはじめ、米ぬかやアミノ酸たっぷりの魚粕を入れたりしているよ。そして一番大事なのは光合成細菌を上手に活用し、土壌をいいバランスに整えていることだと思うよ」
———いちごはデリケートな果物なので、病気に弱いのではありませんか?
自信たっぷりの有坂さんですが、栽培を始めた頃は苦労があったそうです。
「当初は砂地で土もよくなかったから細いレンコンしかできなかったんだよ。利根川を挟んで向かいは茨城県でレンコンの名産地。自分も茨城生まれだから、なんとか千葉でも美味しいレンコンが作れないものかと思って、まずは土作りから研究したんだ。」
———甘味があって、とても美味しいレンコンですね。
「そう、甘いんだよ。そしてシャキシャキ感があるけど柔らかい。それに、漂白していないのに、色が白くてキレイでしょ?」
レンコンの可能性を追い求めて
———日本農業大賞、農林水産大臣賞をいただいたこともあるそうですね。
「レンコン組合を立ち上げて、減反で悩んでいる周囲のコメ農家にレンコン作りを普及したんだよ。販路の確保や研修生の受け入れなども積極的に行って、レンコン栽培を定着させた。味だけじゃなくて、そんな取り組みを評価していただけたんだ。嬉しいね。常に苦労はあるけど、壁は破るためにあるからね!」
———最近は、中国まで視察に行かれたそうですね。
「もともとレンコンは中国を経由して日本にきたからね。中国の研究所を視察させてもらったんだよ。ここに行った日本人はほとんどいないんだ。そこでもらった珍しい種を、今、試験的に育ててているんだよ。日本で誰も作っていないレンコンができるんだよ?そんなことを考えると、わくわくするね!」
———レンコンは健康との関係も注目されていますね。
「漢方薬に使用されるなど、昔からハスには滋養があると言われているけど、近年は喘息や花粉症などのアレルギー症状を緩和してくれると言われているね。乳酸菌を合わせて摂取すると相乗効果があると聞いたので、今はレンコンキムチを作ってもらっているんだよ。これがまたうまいんだな~。また、レンコンを粉末にしたり、葉をお茶にしたり、加工もいろいろ始めているよ。レンコンは捨てるところがないんだ。」
———最後にみなさんに一言お願いします。
「本当にいいものを、ホンモノを作ろうと思って、五十年、やってきました。自信を持ってオススメできるレンコンなので、たっぷり食べてほしいね」
壁は破るためにある。他の人がやらないことに目をつけて自ら道を切り開く。お話を聞いて大いに触発され勉強させていただきました。ホンモノのレンコン、ぜひ食べてくださいね!
(風子)
【取材後記】
とにかく最初から最後まで有坂さんの力強さがビンビンと伝わってきました!この人柄とやる気に引き寄せられて、数えきれない研修希望者が集まってくるんだなと実感しました。「俺はもう賞味期限切れだからよ~」と有坂さんは言いますが、商品開発に新栽培と、目を輝かせて語る姿は、今も青春ど真ん中のようです。まさに古代れんこんのような人でした。
編集責任者 中村 彰宏
れんこんボール
- ■材料
- レンコン:1節
- 揚げ油
- だし醤油:適量
①レンコンを皮ごとすりおろす
②水気を軽く絞りおだんご状に丸めて160度くらいの揚げ油に落として揚げる
③だし醤油(めんつゆでも可)少々をからめていただく
レンコンを小さく刻んで中に入れて一緒に揚げてもいいです。シャキっとしておいしく仕上がりますよ~♪
レシピ担当:古民家空間「風楽」店主 風子